2020-01-01から1年間の記事一覧

だりだり

十年後にはほかの男のことで一喜一憂している、十年後まで持っていける気持ちなんてない、って言葉は救いのようにわたしの胸を打ったけれど、それは十年後に未来が見えるひとにとってそのようにあり、切り崩せる若さなる財のもとはじめて成立するものなのか…

ボーナストラック・トゥ・オ×ラル・イン・ザ・ワールド 

人間学園の校舎裏、木々が直進することを阻む程度には繁っているここは、緑葉に陽が寸断され、いつも間接照明のような仄暗さで、涼しい風が時折吹いた。枯葉が舞い、いつか僕らも枯れていくんだ、なんて、声には出さないけれど人がよく思う陳腐な感傷を、心…

クシャマインについての二三の事柄

そこにそれはあった。橋を渡ると木造の家屋があり、そこにクシャマインが詰め込まれていた。番をしているフレッジと目があった。「ここを出るのかい?」「ああ、ここはもう僕を必要としていないからね」フレッジはクシャマインの守りをして随分経つが、まだ…

鼻フック町

僕らの町ではみんなが鼻フックをしている。誰が決めたのか、何かの罰なのか、それはわからない、けれど、この町ではみんなが鼻フックをしている。僕は高校生で、いまは昼休みなので彼女と校舎裏の旧用務員室で睦みあっている。僕らの町では、鼻フックをお互…

うずうず

吹き抜ける夏の風は過去に感じたようなそれではなく単なる風であった。きっと気候の変化だろう。わたしは何も変わっていない。そう思って携帯電話を取り出し、男の名前をランダムに選んだ。食事をしませんか、と誘うと、おう珍しいな、と、二つ返事だった。…

「ハクション」

「ハクション」 雨が降っていた。僕は彼女に旅の土産を渡そうと、帳が降りた後雨が降りしきる中、傘もささずインターフォンを鳴らした。僕は彼女にいろんなものを突然贈りに行ったが、ほんとうに渡したいものは目の前の唐突に誘惑されて、知らないうちに雨で…